活動内容

医学生・研修医へのメッセージ

前会長挨拶 関西医科大学附属滝井病院放射線科 播磨洋子

「日本女性放射線腫瘍医の会」は島根大学放射線治療科内田伸恵先生の呼びかけで始まりました。私は、平成21年4月18日の第1回目の会合で皆様のご推薦を受け、初代会長を拝命いたしました。
私はこの会の目的の1つは女性放射線腫瘍医を増やすことと考えています。2008年のOECDの調べでは、各国の全医師に占める女性医師の割合はスェー デン42%、イギリス、ドイツ、フランスが39%、アメリカが30%です。2006年の統計では我が国の全医師に占める女性医師の割合は17%で、欧米諸 国に比べますとまだ少ないのが現状です。しかし、最近我が国の女子学生が半数近く占める医学部、医科大学が増えて参りましたし、2008年では医師国家試 験合格者の34.5%が女性でしたので、今後10年で欧米並みになると予想されます。ご承知の通り、放射線治療の対象となる悪性腫瘍は、乳がんや子宮がん のように女性特有の疾患も多く見られます。さらに、今後高齢化社会が加速し、がん患者が増加するのも容易に想像出来ます。そこで、放射線治療に携わる女性 医師を増やすことは、社会においても重要なことですので、この会の大切な役割の1つと思います。それには放射線治療の魅力や女性医師に向いている職業であ ることを積極的にアピールすることも必要と思っています。
次に、女性医師が就業を継続するのにはやはり結婚・出産・育児・介護という問題は避けて通れません。仕事を辞めようとは思わなくても余儀なく辞めざるを 得なくなることもあります。女性医師がより豊かな医療の担い手として社会に貢献できるように、職業生命をまっとうできるようにするにはどうしたら良いの か、皆様とこれから考えていき、答えを探していくのも目的の一つと考えます。
平成21年9月19日に第2回目の会合をもち、この会の顧問を快くお受けいただきましたM. D.Anderson Cancer CenterのRitsuko Komaki先生がご出席くださいました。Komaki先生は広島大学のご卒業で,世界的に著名な放射線腫瘍医ですが,長年米国の女性放射線科医会の会長 もなさっていました。Komaki先生が私達にいただきましたアドバイスに深く感銘しましたので、ご紹介します。まず、「日本女性放射線腫瘍医の会」の大 きな目的は若い女性医師をいかに刺激し奨励するか、リーダーとしてのマネージメント能力開発にあると言われました。女性医師としてアメリカで戦ってこられ た経験から、自分を人に認めてもらうにはできるだけ多くの論文を書くことが一番であると言われたことがとても印象的でした。また、今後、学会旅費支援、教 育ファンドも検討していくように、そして、最後に女性ですから「おしゃれをする」のも大切と述べられました。Komaki先生から戴きましたご助言をもと に、高い志をもってこの会を発展させたいと考えています。皆様のお力添えを宜しくお願い致します。

女性放射線腫瘍医から後輩の皆さんへ 島根大学 放射線治療科 内田伸恵 (現:東京都済生会中央病院)

放射線治療の魅力は、何と言ってもがんの根治的治療や症状緩和を非侵襲的におこなえることです。放射線腫瘍医は放射線治療の専門知識を持つとともに、臓 器別の枠にとらわれない大局的な視点で診療できます。関連診療科や病理医のほか、放射線技師、医学物理士、看護師などとチーム医療をおこなっていく、いわ ば、がん医療における扇の要(かなめ)の役割を担っています。

 

さて、御存じのように医師国家試験合格者中の女性割合が30%を超えて久しく、今後女性医師がさらに活躍することが期待されています。放射線治療は女性医師という立場から見ても大変魅力的な診療研究分野です。

 

まず、長時間の立ち仕事や力仕事がなく、体力的なハンディを感じる事がありません。地道な作業の積み重ねである放射線治療計画や、きめ細やかな配慮が必 要ながん診療は、多くの女性医師が適性を感じると思います。放射線腫瘍医は絶対数が不足していますが、乳がんや子宮がんなど放射線治療の適応となる患者も 増えており、女性医師に診察して欲しいという需要が高くなっています。

 

学生時代には男女の区別を自覚することは少ないと思います。しかし医師として研鑚を積み実力をつけるべき時期に、出産育児が重なると女性医師にとって大 きなハンディとなりがちです。なかには育児との両立が困難で離職を余儀なくされる人もいます。放射線治療は専門性や需要が高いので、出産・育児で一時的に 仕事量を減らすことがあっても、職場復帰するのに有利です。病院の診療体制にもよりますが、病棟勤務や緊急コールのない勤務形態が可能なことが多く、家庭 生活と仕事を両立させたい女性にとって魅力です。放射線腫瘍医の勤務先は大学病院、がん専門病院などの総合病院がほとんどです。一般的な話ですが、大病院 では院内保育所などの福利厚生施設が整っていることも多いですし、育児休業も取得しやすいと思います。

 

近年の放射線治療装置や技術の進歩はめざましく、私が放射線腫瘍医となった頃とは隔世の感があります。近い将来さらに高度な放射線治療が可能となり、そ の重要性が増すことは確実です。専門性の高い診療をしたい人、がん診療を通じて社会に貢献したい人、一生勉強と仕事を続けたい人、男女の区別なく皆さんの 活躍する場は十分にあります。放射線腫瘍医への道を進むことを、後輩の皆さんに自信を持ってお勧めします。

日本女性放射線腫瘍医の会の発足とサイト立ち上げに際しまして 日本放射線腫瘍学会広報担当理事 がん・感染症センター都立駒込病院 唐澤克之

日本女性放射線腫瘍医の会の発足、誠におめでとうございます。
JASTROで広報委員長をしております唐澤克之と申します。

 

ご存知の先生も多いと思いますが、順天堂大の唐澤久美子とは長らく連れ添っており、二人とも皆様に大変お世話になっております。
このたび縁あって、貴会ホームページの立ち上げをお世話させて頂きました。
まだ未完成のところもありますが、どうぞ忌憚ないご意見を伺えましたら幸いです。

 

私が昨年ASTROに参りましたときに、アメリカの女性放射線科医の会の会場を外から拝見する機会を得ました。そこでは非常にたくさんの女性放射線腫瘍医の方々が、活発な議論を闘わせておられました。
きっと日本でも今後女性放射線腫瘍医の数が増え、大きな団体になられることは想像に難くありません。

 

放射線治療は、最近ではメスを使わずに、手術と同じ効果が出せるように、進化を遂げつつあります。外科に比べたら、コストも安く済みますし、より広い適 応も持ちますし、また術後管理の手間が省くことも出来て、特に家事や妊娠、出産、育児などと100%の時間を仕事の時間にかけるのが難しい女性にとって は、うってつけの学問であると考えています。

 

この会を通じて、数多くの女性医師の方が、放射線腫瘍医として成長し、我が国の放射線腫瘍学をリードして頂けるよう期待しております。
そしてその発展にこの度のホームページがお役に立てましたら、望外の慶びです。

静岡赤十字病院 備前麻衣子

医学部における女学生の割合、女性医師の割合は年々増えています。
医師として働く上で、男女の違いは関係ないと言いたいところですが、人それぞれで、女性ならではの悩みを抱えている医師や女性ならではの苦労をしている 医師も少ないとは言えません。現在医療の第一線で働いている多くの女性医師もそれぞれに悩んだり苦労をされてきたに違いありません。
私は平成12年卒で、いろいろな科を研修したのちに放射線治療科に入局しました。最近、学会で「女性放射線治療医の活躍を求めて」という題材でのパネル ディスカッションに参加させてもらう機会があり、その際に自分の同級生の女性医師たちが現在どのような状況下にあるのか久しぶりに連絡をとりながら、調べ てみました。
問題点としては、保育施設の不足、病後時保育のないこと、幼稚園・小学校時期の子どもの帰宅時間が早いこと、核家族化に伴う家族のサポートの不足、パート ナーの転勤、パートナーの理解が得られない、体力的につらいなどがあげられました。子どものいない同級生の女性医師は、全員常勤医として働いており、やは り、常勤医をやめる理由の多くは出産、育児でした。
しかし、最初はみな常勤医として働き続けたいという希望があったようです。今はまだ充分とはいえませんが、現在、さまざまなサポート体制が各施設で考え られています。女性医師の増加と共に、少しずつ体制も変わってすべての女性医師が働きやすい環境になればと思います。そして、女性医師が働き続ける上で、 同性のロールモデルとなる女性医師の存在やメンター(良い助言者)の存在もとても重要だと考えます。同性のロールモデルの存在は、自身の目標や指針を見つ けやすくします。また悩んだり困った時に、相談できるメンターを見つけることで精神的にも心強くなります。しかしながら、あまり人数の多くない女性放射線 腫瘍医にとって、なかなかメンターやロールモデルに出会える機会は少ないと思います。
この女性放射線腫瘍医の会を通じて、若手女性医師たちが良きメンターやロールモデルに出会え、医師としてのより素晴らしい未来につながることを心から望 みます。

女性医師と放射線腫瘍医の現状

JASTROの構造調査によれば、2011年度の会員3,450名に占める女性数は524名である1)。表1はJASTRO事務局資料で、1988年から2011年のJASTRO会員数と、その男女比が示されている。これによれば、女性の比率は1988年の7.4%から徐々に増え続け、2011年には2.4 倍の17.9%になっている。 

 厚生労働省 厚生労働統計一覧 医師・歯科医師・薬剤師調査によれば、医師全体に占める女性医師の比率は18.1%であり(表2)2)、JASTRO会員数における男女比とほぼ同じである。これは同時に、若い年齢層では女性医師の比率が高いことを表しており、出産・育児などでの課題が多い30代での女性医師の比率は26.5 %と、実に4人に1人以上である(表3)2)。 

 放射線腫瘍医は、ハイテクな頭脳労働と言っても良く、他科との連携のお陰で自身が病棟管理の責任を持つ機会は少なく、米国では女性に人気と聞いたことがある。そうだとすれは、もっと女性の割合が多くて良いのではないだろうか。 

 JAWROの活動が、女性放射線腫瘍医の労働条件改善や支援システムの構築、将来の女性放射線腫瘍医のリクルートの力となるよう、役員一同の一層の努力を誓い、会員諸姉のご協力をお願いする次第である。 

 
参考文献

  1. JASTRO 2009年構造調査結果第1報(解説版)、2009年構造調査結果第2報(解説版)
    http://www.jastro.or.jp/aboutus/child.php?eid=00025
  2. 厚生労働省 厚生労働統計一覧 医師・歯科医師・薬剤師調査
    http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/08/dl/gaikyo1.pdf

 

(文責 唐澤久美子) 

JASTRO会員推移 JASTRO会員推移

日本の医師数と性別 日本の医師数と性別

性・年齢階層別医師数 性・年齢階層別医師数

放射線診療は女性医師が実力を発揮できる領域|鳥取大学 内田 伸恵(現:東京都済生会中央病院)

学生、研修医、若手医師の皆様へ 順天堂大学医学部附属浦安病院|齋藤アンネ優子

  「放射線治療の先生はね。私がもうすぐ歩けるようになるって本気で信じてるの。」

脊椎転移による脊髄圧迫のため、両方の足が動かなくなってしまい、ある日突然、歩行どころか、立つこともできなくなった患者さんが、照射開始1週間後に担当の先生に伝えた言葉である。
癌は、この転移を契機に発見された。そういう事情もあり、症状が出現してから診断が付き、放射線治療施設のある当院を受診するまでにかなりの日数が経過してしまった。当院に転院となったその日に、緊急対応で放射線治療が開始された。完全に歩行不能になってから16日が経過していた。
教科書などには、こういうタイプの下肢の麻痺症状は、ゴールデンタイムを過ぎると治療が困難になると書いてある。ゴールデンタイムは、症状が出現してから72時間以内。患者が来院したのは、72時間どころか、症状出現からすでに16日が経過した時点である。本人も含め、彼女が再び自分の足で歩けるようなるなどと考えているものは誰ひとりいなかった。『放射線治療の先生』を除いて。
ところが開始から2週間が経過した放射線治療の最終日、彼女は、ふらつきながらも車いすから立ってみせてくれた。「この調子でリハビリをがんばって、1日も早く歩けるようになりたいです」という言葉を残し、当院初診時とはまるで別人のような笑顔で、もとの病院に転院された。

放射線治療は非常に魅力的な分野である。
様々なすばらしさがあるが、なんといっても、以下の二つは魅力的である。
1.がんを根治できる
2.患者さんを、がんが引き起こした苦しみから救うことができる
 
男性の2人に1人、女性の3人に1人ががんになる時代。日本人の死亡原因第1位は1981年より、一貫として悪性新生物であり、現状では、全死亡の半分近くが悪性新生物を原因としている。
とかく、放射線治療は、治療法がなくなった患者さんに対する気休めの治療と誤解されがちだが、それは大きな間違いである。実際は、胃癌など一部のがんを除けば、早期がんでは手術と同等、進行した癌においては、手術より高い治療効果を望める治療法である。
しかも、身体にメスを入れて、臓器を取り出すわけではないので、治療により患者がうける合併症は、手術に比較して小さく済むことが多い。
この魅力に魅せられ、米国、フランス、イタリア、ドイツ、オーストラリア、韓国など多くの先進諸国では、放射線治療は非常に人気の高い診療科である。特に米国では人気が高く、学生時代の成績がかなり優秀でないと放射線治療医にはなれないということが、医療分野のみならず、一般にも広く知られている状態である。
放射線科は女性に向いている診療科である。こんなことを私が言い出すと、「遠隔読影とかもできますからね」と、誤解する人が多い(そっちの放射線科ではない)。
放射線治療が女性に向いている診療科と私が考えるのは、女性である方ががん患者さんの対応に有利だと思うからである。
女性の脳は、脳梁が太く、生物学的に、他人とのコミュニケーションに有利な構造である。そういうこともあり、相手の言動や表情から、気持ち(本心)を探ったりするのが得意な人が、女性には多い。また、同じことを言っても、男性より体が小さく、声が高いため、女性の方がソフトに伝わるという利点もある。さらに、好むと好まざるに関わらず、女性の方が、仕事以外のところで、しがらみにはまるリスクが高いのも事実である。しかし、こういう煩わしいしがらみを通して、実は人間関係の訓練を無理矢理積まされているという利点もある。
実際、ヨーロッパやアジアには、放射線治療医の半分以上が女性という国が多い。しかし、日本の現状は、放射線診断には女性が多くても、放射線治療は、依然女性の少ない診療科である。
また、よく受ける質問に、被曝の問題がある。放射線治療には、非常に高い線量が使用されるため、医師の被曝も相当多いのではないかという懸念である。
放射線治療は、小線源治療(特殊な施設が必要なため、行える施設は限定されている)を除き、医師が仕事中に被曝をするような治療は、あまりない。
放射線治療の面白みは、医学部の授業だけでは中々伝わらない。実際、私も学生時代に授業を聞いていて、かけらの魅力も感じなかった。だからこそ、これから進路を決定される方、是非、一度、放射線治療の現場に見学にいらっしゃることをお勧めする。
当院はもちろん、JAWROメンバーが勤務している施設は喜んで見学を受け入れてくれるだろう。
放射線治療は、非常に魅力的ですばらしい診療科である。しかも、『女性でもできる』診療科ではなく、『女性だからこそ有利な』診療科なのである。