新着情報

JAWRO 学会助成 熊井康子先生の報告書

2016.07.28

がん研有明病院 放射線治療部 後期レジデント
熊井 康子

 
日本女性放射線腫瘍医の会(JAWRO) 学会助成事業にご支援いただき4月29日から5月3日までイタリア トリノにおいて開催された欧州放射線腫瘍学会(ESTRO)35に参加いたしましたので報告申し上げます。
2015年は医学科卒業後5年目の節目になる年でしたので、海外学会での発表を目標の一つにしていました。所属病院であるがん研有明病院の放射線治療部のスタッフの方々にご指導いただき、研究結果を何とか形にできましたので、ESTRO35に演題を応募しました。幸いにもe-posterで採択していただき、その結果をもってJAWROの助成事業に応募し、こちらも採用していただきました。
放射線治療に関する国際学会は初めての参加でしたので、聴講参加だけではもったいないと思い、学会より1日前に始まるWorking shopのひとつであるcontouring schoolにも参加しました。Contouring schoolは全5コース開催され、そのうちの前立腺、肛門管癌ならびに腹部リスク臓器の3つのコースに申し込みました。各コースには30名ほどの参加者がいましたが、前方の席は私のような複数のコースにわたって受講するレジデントが占めていました。近くに座っていたレジデントたちと交流ができたことで、勉強はもちろんのこと、楽しい時間も過ごせました。Contouring schoolは各コース2時間という限られた時間の中で、対象疾患の疫学・病態、そして症例提示、contouring、総評といった流れで行われました。私のような経験が浅いレジデントはもちろんのこと、ご自身の見識を深めるために参加されているベテランの医師・物理士も活発な質疑をされていました。実年齢も経験年数も様々な方々が参加していましたが、一つ一つが濃い内容で、各々の日常診療の中で活用できるtipsを持ち帰ることができたのではないかと思っています。
4月30日に本格的にESTRO35が開幕してからは、様々なセッションを聴講しました。特に印象に残ったのはdebateのセッションです。討議内容は乳腺の加速乳房部分照射(APBI)を強度変調放射線治療(IMRT)で行うか、あるいは小線源治療で行うか、というものでした。デンマークの若い女性医師がIMRTについての発表を堂々としていました。論拠に基づいた多くの論文を引用し、自分の治療選択を裏付ける客観的なデータを的確に理論づけて発表していました。Debate前はどちらかというと小線源治療を選択する施設が多かったのですが、debate後はIMRTを選択してもよい、という施設が半数程度に増えていました。最終的にはIMRTで行うか小線源で行うかは症例ごとに論議すべきという合意に至りましたが、IMRTを発表した女性医師のdebating技術は自分の将来の発表に取り入れたいと思いました。
さて、勉強もさることながら、ESTRO35の中日には第2回ESTRO SUPER RUNに参加しました。ESTROの会場となっているリンゴットセンターは、もともとは車メーカーのFIATの工場だったとのことです。その名残が屋上にあり、試運転のコースがそのままの姿で残っており、今回のESTRO SUPER RUNはそのコースを使用するとのことでした。これはもう、参加するしかない、と思い、同じくESTROに参加予定であった指導医の小口 正彦先生をお誘いしてエントリーしました。当日朝は雨が強く降っており開催が危ぶまれましたが、参加者の日頃の行いのおかげで徐々に天気が回復し、最終的には私たちもリンゴットセンターの屋上に立つことが出来ました。遠くに冠雪したアルプス山脈を眺めつつ、多くの参加者と一緒に走りました。タイムを競う本格的なチームもあれば、私たちのように特別な機会を得ること自体が目的のチームもありました。チームのスタンスは様々でしたが、走ることを通して、放射線治療に携わっているという不思議な一体感に包まれたようでした。
学会後はイタリア料理を堪能しましたが、このこともまた、機会あれば多くの方々に伝えたい素敵な時間でした。
今回、JAWROより助成いただいて、このような貴重な機会に恵まれ、大変有意義な経験が出来ました。改めてJAWROの関係各位の皆様、ESTRO35への出張を許可してくださった病院スタッフの皆様に深く御礼を申し上げます。誠にありがとうございました。この経験で得たことを日常診療ならびに自分の飛躍につなげていきたいと存じます。